武井地子

説明できない作品 感じてもらう喜び

                                         ─画家たちの心象風景を歩く⑤

 

 

    フジギャラリー新宿では、インテリアにマッチしたアート作品をご紹介しています。抽象も多く扱っていますが、お花や動物の絵、風景画ならば何となくわかっても、抽象画は、ただの線だったり、丸だったり、絵具を散らかしただけのように見えたりして、「分かるようで分からない」というのが、正直な感想ではないかと思います。

   そこで、完璧な左脳人間・原田が、アートを生み出す人々にインタビューするシリーズ。

 今回は、シックな作風が人気の武井地子さんです。

 

 

作品《in white #138》と武井地子さん=2020年5月、フジギャラリー新宿で 

 

 

―――西東京市のお生まれで、音楽もお好きだったけれど、武蔵野美大の日本画を選ばれたと伺いました。

 はい、日本画の質感が好きということもありましたが、得意な絵で、油絵に比べると日本画は教わらないとできないだろうと思ったのが進学の決め手になりました。

 

 

―――なるほど。卒業後はずっとフリーでやってらっしゃるのですね。作品をつくるときはどんなふうになさるのですか?

 ずっと絵のことは考えていますが、ある程度カチッと頭の中で完成したものを、一気に紙に描き出すという感じが多いです。私は墨を多用していますが、墨は書き直しができないので。書に似たイメージです。自宅の部屋で描くことが多いですが、大きい作品をつくるのも好きで、7メートルぐらいの作品を描くこともあります。銀箔などは変色させていきますが、通常は粉末の硫黄を置いて数日かけて変色させるのですが、浮かんだイメージを失わないよう一気呵成に仕上げたいので、入浴剤として使う液体の硫黄を使ってみたり、熱を加えたり。結構強引です(笑)。錆とか腐食した色や質感が好きなので、ほかの方がしないような手法も取り入れている方かもしれません。

 

  

≪in white #145≫ 武井地子 墨、岩絵具、箔、膠、土佐麻紙 530×410mm

 

 

武井地子 墨、岩絵具、箔、膠、土佐麻紙 273×190mm

 

 

欧米アートフェアにも積極的に

——— 海外のアートフェアにも多く出されていますね。

  元々海外志向が強いのかもしれません。日本はアート市場が小さいですから、海外には早くから目を向けていました。それに、日本国内だけだと、日本の流行りに合わせなくてはいけないのが窮屈な気がするんです。日本では、アニメ的表現や、一方で超写実的な絵が流行していますし、売れるのですが、自分がいいと思うものとは違う。海外の方が自分の作品は受けるのではないかと考えています。

 

 

 ——— ドイツ・ベルギー・オランダ、アメリカで展示をしてらっしゃる。

    はい。ニューヨークでは、東京の銀座のように、チェルシーがアートギャラリー が集中しているエリアなのですが、そこのビルの中にある画廊でグループ展をさせていただきました。ヨーロッパでは、2011年から毎年アートフェア に出品しています。

 

 

 ——— アートフェアはどのあたりの国に?

 海外のアートフェアに出展はじめたのは、とある画廊さんのお勧めでしたが、もともとドイツが好きだったので波長が合うのかもしれません。学生の頃、初めての海外旅行もドイツでした。特にドイツ、ベルギーの人達は勉強熱心というか、じっくり観賞する感じです。日本画という伝統的な技法にとても興味を持ってくれている人が多い気がします。私の作品を見て「エレガント」という表現をされるのが印象的で、とても嬉しく思いました。コンテンポラリー(現代美術)でありながら伝統的な技法を用いるということも魅力的に感じる要素なのかもしれません。

 

  海外で発表したい理由の1つに、大きい作品が飾れるという点があります。美術館やギャラリーも天井が高く広々とした空間が多いです。素敵な空間に出会い、自分だったらここにこういう作品を飾りたい!と想像することもとても楽しいです。その体験が次の制作意欲にもつながります。

 

 

 ——— その期間は在廊するのですか?

 在廊は、場合によりますが、私はあまりしません。それに、欧米の方は、自分の感覚を持っていて、日本のように説明を求められることもあまりありません。「好きだ!」と思ったら、ひとりでに熱くなってくださって、好きなように解釈なさる。自分の審美眼を信じているんだなと思いますし、パッションを読み取ってくれる。説明しようとすると「しなくていい」と言われることもあるぐらいです。そういう反応が、描き手としては嬉しかった。私の絵はモチーフもありませんし、説明できるタイプのものではないんです。絵をパッとみて、湧き上がってくる感情、切なさとか、懐かしい気持ちになるとか、そういう感覚を大事にしたいのです。

 それに、NYや欧州には多様な人がいますので、自分の作品が合う人も、きっといそうな気がしています。

 

 

2020年 2月 LA Art Show 2020/Los Angeles

 

 

欧米流は「自由に解釈」

——— たしかにフジギャラリー に足を踏み入れる外国人ゲストも、勝手にアートを解説していきます。「これは怒りだ」とか「太陽だ」とか。

  あちらでは、アートに関する気負いがない。私の作品も、安くはないのですが、30代ぐらいの、ベビーカーを押している女性が、ポっと買っていくんですね。インテリアにアートが浸透しているんだなと思います。

 

 

 ——— 作品のイメージはどんなところから始まるんですか?

  アイデアの種みたいなものは、あらゆるものからです。旅行もそうですが、山登りもしますし、スキーにも行きます。スキー場の吹雪いている様子や、2千メートル以上の高山の荒涼とした風景が好きです。そういったイメージが枯渇してしまうと、絵にするものがなくなってしまうという危機意識もあって、茶道と華道は10年以上続けています。お茶は石州流で、お免状もいただいています。華道は少ない数の花、草、木を使って豊かな空間を作る「引き算の美学」をまなぶことにもなりますし、茶道ではお茶碗や茶花、掛軸など、総合芸術を学ぶことができます。着物も着ます。イメージが補給できるのです。

 

 

 ——— 和ですね。

  だからかどうか、海外では作品から想像される人物像が「年配の男性」で「武士っぽい」というイメージがあるようです。作家が女性だと言うと大変驚かれます。

 

 

《in white #148》武井地子 墨、岩絵具、箔、膠、土佐麻紙 333×220mm

 

 

オーダーから生まれるひらめき

——— 日本ではどんな方が買っていかれますか?

 独立したてのWebデザイナーさんや、ベンチャー企業の方が、オフィスを立ち上げたから絵を掛けたい、といって見にいらっしゃいます。みなさん最初は「今ある中から選びます」とおっしゃるのですが、私がその方にお会いして、こんなお仕事をなさっていて、こんな空間で、と聞くと、イメージが湧いてしまって、ついそれを描いてしまう。そして、お見せすると、結局、新しく描いたものをお選びになりますね。

 

 

 

——— なるほど。フジギャラリー 新宿にもそういったご注文があればお受けできますね。

 私自身は、空間ありきのアートというのを昔から意識していて、最近世間にも浸透しはじめたように思います。2018年8月には新宿高島屋のホームインテリアのフロアにある美術画廊で、個展をしました。高島屋では、会員制サロンの方に展示していただいていました。質感のある壁面だったので、また違った面白さがありました。

 

 

特徴的な石の壁に映える=東京都新宿区の高島屋

 

 

インタビュー後記 ————————————

 武井さんの作品は、白地と墨の割合が絶妙で、日本画というフィールドでありながら、どこか洋の雰囲気を漂わせています。それは、海外旅行経験や、海外のアートフェアに出すことで培われた作品の奥行きなのかもしれません。欧米で学んだ「空間の中のアート」というコンセプトを体得しているせいかな、と思います。秋には個展を企画しておりますので、是非お越しくださいませ。

(原田愛)