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アートのお値段 〜材料編~

 こんにちは。フジギャラリー 新宿の原田です。

 

 アートを買う時に、一番気になる「価格」についてのお話です。

 

 美術業界は長らく、価格について説明をしてこないできました。

 オンラインストアなどでも、価格を掲載していないところがほとんどです。価格を出していないと、「すごく高そう」となるのですが、非公表だからといって高いというわけでは全くない、というのが不思議なところです。

フジギャラリー新宿では、価格を出すことでより身近に作品を感じていただきたいと思っています。

 

 価格に関しては、さまざまな要素がありますが、その前提として、「画家の描く絵の材料って何?」という疑問の前の疑問を解消していきたいと思います。

 

 

フジギャラリー 新宿でよく扱う作品の種類は以下の5種類です。

 

・油彩画

・アクリル画

・水彩画

・日本画

・ミクストメディア

 

 どの作品にも、オリジナルであれば、この「材料」が書いてあります。これがなかった場合は、いずれにせよ「印刷(版画)」になります。

 

 そして、価格に関しては、おおむね

 

日本画≓油彩画≓ミクストメディア>アクリル画>>>水彩画 

 

 となります。まずは、油絵とアクリルについてご紹介いたします。

 

1)油彩画

《光のあいだ -marbles-》伊藤朋子 キャンバス・油絵具 1167×803mm

 

 

 油絵具は、「乾くと硬くなる油」と「顔料」とで構成されています。「顔料」というのは、「色のつくもの」で、鉱物やナトリウムなどの元素によって作られています。

 

 油絵具は混色に強く、混ぜるとイメージ通りの色に発色します。ここが、油絵作家が油絵を選んだ、主な理由のようです。絵には、構図やモチーフや色、テクスチャー、といった様々な要素がありますが、油絵は、基本的に多彩な色を操ることで表現したい、と思う作家が選ぶ画材です。

 

 特徴は保存性が高いこと。

 

 絵に関しては、実はこの「保存性」が、一般に思われているより重要です。 色が変わらない保存性と、粘りがあって取り扱いがそれまでの絵具より容易だった、という点が、油絵が最近まで普及していた理由です。

 

 乾くのに多少時間がかかりますが、一度乾くと長持ちしますし、塗ったテクスチャー(マチエールといいます)が、塗った時のまま保持されるので、オリジナルらしさが出ます。

 

 油絵具はチューブに入っている量や色、メーカーにより一本300~2000円ほどです。

 

 ベースとなるのは、木枠やパネルにキャンバスを貼ったものですが、このキャンバスも、目が細かいものや荒いものを、自分の作風に合わせて画家が選びます。色も生成りが強いものから白っぽいものまでありますが、白く見えるところも全てベース(ジェッソなど)を塗っていますので、そのままのキャンバスの色を見ることはほとんどありません。

 

 キャンバスの布は、麻や綿などの天然繊維が主流です。

 

 布を木枠にタッカー(大きなホチキスのようなもの)でピンと張ってありますので、とても大きな作品の場合は、枠から外して運搬することも可能です。

 

 筆やパレットは水や石鹸で洗えませんので、専用のブラシクリーナーを使用します。

 

2)アクリル画

《watershed》福室みずほ パネル、綿布、アクリル 415×415mm

 

 

 アクリル絵具は、現代版油絵具とも言えそうな素材。油絵具と違って、色をキャンバスにくっつける「糊」の役割をしているものがアクリルエマルジョンという化学物質で、その中の水分が蒸発することで定着します。一度乾くと水に溶けません。

 

 油絵具が油で希釈しなくてはいけないのに対し、アクリルは水で希釈できるため、パレットや筆を水で洗うことが可能で、扱いが容易です。

 乾燥後は、油絵具に比べると多少体積が縮む(凸凹が減る)のですが、ほかに材料として欠点がないため、油絵を描きつつアクリル画を手がける画家も多くいます。

 

 絵は長持ちしなくてはいけないので、この材料が出始めの頃は「材料は、100年経たないとわからないから使わない!」と警戒する作家も多かったようですが、最近は扱いが容易な画材として主流となっています。

 

 

3)水彩画

《モチーフの種 Ⅲ》伊藤朋子 水彩、紙 350×440㎜

 

 

 水彩絵の具は、誰もが一度は手にしたことがある画材ですが、画家が使う絵具は、学童用とは少し違います。学童用の水彩絵の具は、色出しが使いやすく合成されているそうです。画家の使う水彩絵の具は色の原材料が、染料など「由来がはっきりしたもの」となり、退色しにくくなっています。

 

 水彩絵の具は「染料」、油絵具が「顔料」であるのがポイントです。

 水彩は、紙に色を吸い込ませるので、繊細な表現が得意で、作品としても軽やかなものが多いと言えます。なお、紙に描いてあるので、額縁が絶対必要で、ガラスと作品の間にはマットを挟み、作品がガラス(最近はアクリルが多いですが)にくっつかないようします。

 

 おおむね、油彩画を描く作家の水彩画は、油彩の半額程度になりますが、これは日本固有の価格のつき方であり、海外ではそういった差はありません。なので、とてもお得と言えます。

 

 注意点は「カビ」。

 

 画家は大抵画材にこだわっており、紙も耐久性の高いものを使用しています。絵具も問題ありません。しかし、カビだけは要注意。新しいものはそう心配することはありませんが、保管状況が悪いと、シミやカビが出る場合があります。仕舞いっぱなしにせず、定期的に壁にかけて楽しむのが、一番の保管方法と言えそうです。

 

 

4)日本画

《in white # 199》武井地子 墨、岩絵具、箔、膠、白麻紙 652×500mm 

 

 日本画は、最も原材料が高価な絵と言えます。

 

 岩絵具は粉状で、紙に、煮込んだ膠(にかわ。動物のタンパク質から取るゼラチン。さらに精製すると食用になる)でひとつひとつの粒を紙にくっつけるようにして描きます。

 材料となる岩絵具は、天然鉱物で、それぞれの色の元となる原石が存在します。ほとんど宝石のような絵の具で、色によって価格が大きく変わります。

 

 

武蔵野美術大HPより

 

 粘度が低いため、紙を水平に置いて描きます。ですので、支持材(キャンバスや紙)をイーゼルや壁に立てかけて描くアクリル・油彩・水彩に比べると、作品の大きさによっては、大変面積の広いアトリエが必要になります。

 

 画材の扱いが容易でなく、一般的でないことなどから、「美大などに進学して教えてもらわないと描けない」技法。また、金箔や銀箔などの箔もよく使用するという点で、最も宝石に近いアートとも言えそうです。

 

 日本に昔からある画材であり、色も日本古来の色が起点になるため、日本の文化や日本人の心にフィットしやすい画法です。理由は、画材が高価であるという点と、日本画界は歴史的に天皇を頂点にした組織づくりで商業化に成功していたという経緯のため、値付けは高くなりやすい傾向があります。

 

5)ミクストメディア

《華詞 ~菊~》須藤美保 ミクストメディア 515×420mm ¥242,000

 

 

 Mixed media:「いろんな技法を組み合わせた」という意味で、布や金箔・銀箔、針金、石膏、ハンダなど、いろんな材料を組み合わせたものを総称します。上の《華詞〜菊〜》は、和服地に金箔、油絵具といった多彩な画材を使って完成させています。銀箔・銅箔などは、色が変色しないよう、色止めなどを施しています。

 

 実験的なアートの場合は別にして、ギャラリーなど、プロから購入なさる場合は、保存性の高い素材・加工を使って制作されているので、安心してご購入いただけます。

 

 

 これ以外にも、パステルやクレパス、色鉛筆など、画材は多々ありますが、やはり価格がつきやすいのは「保存性」の高い作品です。保存性の高さは、扱いやすさにつながり、私たち画商も扱いやすく、所有者も持ちやすい、価値を維持しやすい、という点があります。

 

 

いかがでしたでしょうか?

 

フジギャラリー 新宿では、みなさまのアート選びをサポートいたします。

ぜひinfo@fuji-gs.jpまでお問い合わせください。